この世の果てまで血に塗れようとも



 あなたを死なせたという自戒だけが、今の私の生きる糧。

 私達が生み出されたのは、天使大戦前のことである。
 私達のベースとなった人間のことは記憶にない。そもそもそのような記憶を有している完全機械化兵ファルコンネン・マシーネン・ゾルダートなど稀だ……道具に必要なのは過去ではなく性能なのだから。そして過去とは、性能に対して大きな影響を与えうる。それは良きにつけ、悪しきにつけ、兵器に求められる標準性能を大きく逸脱する結果しか生まない。
 人間のような姿を持ち、人間のような感情を持っている。しかしそれは、インターフェース、偽装に過ぎない。そうプログラムされたからそう応答するというだけことだ。シリコンベースの脳だろうとカーボンベースの脳だろうと、やることは変わらない。カーボンベースの脳のほうが、状況判断能力が優れている(抽象情報の並列処理を得意としている)という程度の理由で、完全機械化兵の脳は素体となる人間のクローンを使用している。(他にもV機関ヴァルターチューブを稼動させるためとかの理由もあるようだが)
 機械なのに……機械なのだから、そのようなインターフェースを設定するのは、設計者の傲慢に過ぎない。機械として、人形として生み出したくせに、人間のような応答を望むなんて、神様にでもなったつもりなんだろうか。
 事実、私達にとって彼は神に等しい存在だったわけだけど。
 そう、それならきっと、だから私は、同型機の誰よりも人間らしい感情を手に入れることができたんだろう。
 神を殺すことによって人が科学を得たように、神を殺した私は、ようやく人間わたしらしさを手に入れた。

 桜花おうか、というシリーズ名をつけられた。設計者の趣味、らしい。
 でも、私にはそれとは別の名前があった。私と私の相棒には、それぞれキルシュkirschブリューテンblutenという名前がつけられた。そのまんまじゃないかと笑ってしまうけれど、それもまた、設計者の趣味というやつらしかった。
 わかりやすく、というのが私達のコンセプト。あるいは、女性的に、というのもコンセプトに組み込まれていたらしい。どのあたりがそうなのか、少し悩むけれど……まあ、女性的というのは否定しない。同型機の誰もが、温和で物静かな気性だった。戦闘には不向きなんじゃないかと思うほど。
 実際には、そんな心配なんてなかったんだけれど。温和で物静かに見えたとしても、そう装ってるだけで、そういう感情を持っているわけじゃない。敵兵を切り殺しながら微笑むことだってできるのが、私達の性能というやつだ。感情と肉体と行動はすべて切り離されている。友軍に応答する感情と、敵兵に対して示す行動はまったく別のロジックとして矛盾なく動作する。
 キルシュは前衛担当、私ことブリューテンは後衛担当。キルシュが突貫し、あるいは敵を引き付け、私がそれを殲滅する。肉弾戦なまみだろうが機上戦せんとうきだろうが、私達の役割は変わらなかった。
 その分、キルシュは傷つくことが多かった。私は無傷の女王と揶揄され、味方を盾にして戦果をあげる卑怯者と蔑まれたけれど、キルシュは整備の連中にも愛されるような、そんな可愛らしさがあった。
 私にはキルシュがいた。キルシュがいればそれでよかった。他の連中にどう思われようとも、キルシュが私を認めてくれるのなら、私はどんな蔑みにも耐えられた。
 その時の私には、気づくよしもなかったけれど、すでに私は壊れかけていたように思う。キルシュに依存していた私は、自分の感情なんてインターフェースのことをすっかりと忘れていた。

 私達は、実際うまくやっていたと思う。戦果は同型機の中でも抜きん出ていたし(とはいえ、他の連中は同型機同士でコンビを組んではいなかったけれど)、どんな激戦区でも必ず生還する勝利の女神とすら言われていた。
 それがおかしくなりだしたのは、私が彼と会うようになってからだ。
 彼は私の設計者であり、生みの親でもあり、会うこと自体が特別だったわけでも珍しかったわけでもない。メンテナンスの度に顔を合わせ、作戦の前にはチューニングを行ってもらう。それは、私にしろ彼女にしろ、変わることがなかった。
 私が彼と個人的に会うようになったのは、一度私が死に掛けた時、だったように思う。
 いつも通りの戦闘、いつも通りの戦術、そして、いつもとは違う、敵。
 白兵戦に特化した天使兵によって、私の乗機は撃墜寸前の状態に陥った。彼女がいたから生還こそできたものの、肉体に受けたダメージは深刻で、ほぼすべてのパーツを取り替えるほどの損傷だった。
 傷ついた私を見て、彼は言ったのだ。君が傷つくのを見るのは辛いな、と。
 その言葉になんの意味があったのかはわからない。その頃には数体の同型機が"戦死"していたし、そもそも兵器が傷ついたからといって、彼が辛いと感じる理由はどこにもないはずだ。
 それなのに、それでも私は、その日から時間さえあれば彼の元に通うようになった。理由はなんとでもなった……なにしろ彼は私の設計者なんだから。メンテナンスだの機能調整だの、ありもしないことをでっちあげたとしても、問題になんてなるはずがない。
 私と彼女の距離がちょっとだけ開いて、私と彼の距離がちょっとだけ近づいて、そして私達は狂い出した。

 愛しているのかと問われれば、もちろんだ、と答えることはできた。
 しかし、人間として愛しているのか、と言われると、素直に頷くことはできなかった。
 その頃の僕は、自分の過ち……兵器に感情を与えたことを悔やんでいた。入出力インターフェースとしては優れていたそれは、実際、優れすぎた結果をもたらしてしまった。
 兵器が感情を持ち、あまつさえ誰かに恋をするなどということがあっていいのだろうか。
 しかし、そもそもが人間の脳を使った兵器だ。感情を完璧に消し去ってしまうと、うまく動作しないことも事実である。戦場において、恐怖を知らない兵士など何の役にも立たないのと同様に、ともすれば冷静な判断力を奪うそれがなければ、的確な状況判断もできなくなる。
 桜花シリーズには、だからこそ率直さ、素直さをロジックとして組み込んだ。無理なものは無理と機械的に判断すること、客観的な判断を友軍に伝えることができること、戦場における支援機能として、それは申し分のない結果を出していた。……ただ一つ、自機の損耗を除いて。
 桜花シリーズは消耗が激しい。電撃戦では常に先頭に立ち、撤退戦では常に殿を務め、もっとも危険な配置に身を置いて、戦場の一番最低な状況を報告することが求められたからだ。どれだけの技術が使われていようとも、所詮は機械、いくらでも換えはいるのだと。
 設計者として、それが勝利だったのは間違いない。コンセプト通りの働きをし、結果を見せることができた。次のプロジェクトも内定し、今回の結果を踏まえた次世代完全機械化兵の開発を任されることになっている。
 僕は狂っているのだろうと、そう思うことがある。自らが生み出した兵器に対して、愛情を抱いているのではないかと疑問に思う時点で、それがそういった対象であることを認めているのだから。
 開発者としての思い入れと区別がつかなくなっているだけなのかもしれないが。あまりにも健気なそれを見て、本当に自分が組み込んだプログラムなのかと、そう疑ってしまうことがある。
 それを見て、いっそ狂ってしまえたらいいと考えている僕には、すでに自分が狂っているということに気づくことができなかった。

 新たな戦地への転属が決まった。彼女のよそよそしさは日増しに酷くなる。
 私が一番理解できないのは、彼女の報告に嘘の記載が紛れ込んでいることだ。誰かに愛着を抱いている、というのなら、それを報告し、修正を受けるべきだというのに、彼女はそれをしていなかった。
 特定の個人に感情を抱いてはいけない。国家に対する忠誠以上の感情は必要ない。仲間に対する感情すら、実はそれほど必要とはされていない。
 私達は常にその水準に調整され、され続ける。それに対して不満などあるはずがなく、もし私が彼女の立場だったなら、迷わずそうしただろう。
 そうしなければ兵器としては欠陥品で、欠陥品は例外なく処分されるのだから。
 私と彼女の違いは、ではどこにあるのだろうか、と考える。同型機であり、同時期に生み出され、すべての戦場を共有してきた。戦傷など、取り換え可能なパーツの損傷に過ぎず、言ってみれば人間が髪を切り、爪を切るのと大差ないのだから、それが総体に対して影響を与えるはずもない。
 彼女は少しだけ髪を伸ばした。それが私と彼女を見極めるものとなった。
 私は初めて、彼女が理解できないと思った。

 髪を伸ばしたい、と相談されて、正直、驚いた。
 個人を識別するための記号を欲しているのだと気づいて、愕然とした。
 この桜花は、もうダメなのかもしれない。キルシュとブリューテンを見分けるための記号が必要だということは、いままで必要としていなかったそれを求めるということは、彼女達の間に仲間意識ではなく、対抗意識が生まれ始めているということだった。
 しかし、戦闘の邪魔にならない限り、そういった自由は認められている。だから、私には拒否することができないのがわかっているのにそんなことを言うということは、他の誰でもなく、私にそれを示したかったからだろう。
 私が彼女達の不和の原因になっている。そんなバカな話があっていいわけがない。私はそんなものを求めてはいない。
 なにを間違ったのだろう。成果の上がっているプロジェクトの粗探しをしたところで、それらはすべてプラスの要因としてしか認識できない。そう、一つだけ間違いがあるとするなら、彼女達が別の人格を形成するように、前衛と後衛をわけたことだろうか。
 次のプロジェクトでは、並列化した脳を持った完全機械化兵を作る予定だった。個々の経験を全体で共有し、郡体として一つの兵器を形成する、より実用的なシステムを構築する予定だった。
 その判断は正しかったようだ。個体それぞれがこれほどの自我を持ってしまうと、兵器としてはアンバランスすぎる。
 目の前に人間としか思えない感情を見せる人形を見てそんなことを考える自分に、心底嫌気が差した。自分はこんなことをするために開発者になったのか。
 人間と機械の調和。そんなものを求めた私が、狂っていなかったはずもない。

 それが私達の最後の戦闘になった。

 キルシュが死んだ。
 彼はそれを酷く悲しんだ。
 私はそれ以上に悲しんだ。
 なんのために髪を伸ばしたのか。なんのために彼と会うことを続けたのか。何一つわからなくなった。
 私はキルシュが欲しかっただけ。そのためならなんだってしたのに、結局、手に入れることはできなかった。
 キルシュは正しかった。彼女は彼に対して特別な感情を抱いていることに気づき、それを調整した。その結果、彼と彼女の関係はなんにもならなかったけれど、私の心には楔が穿たれた。
 そんな調整をしたところで、いずれキルシュはまた彼に対して特別な感情を抱く。私にとってそれは確信で、疑う余地のないもので、だから私は、私が彼の特別になってみせることで、キルシュの気を引こうとした。
 論理的じゃない。合理的でもない。私はただ、キルシュを必要とし、それに依存し、彼女のすべてを自由にしたかっただけだ。
 兵器には葬式はない。ただ欠品として記録される。
 私は彼女の死を彼に報告し、その場で彼を射殺した。
 なにもかもを憎んでいた。彼を憎み、彼女を憎み、己を憎み、彼を殺せば自分も死ねるのだと、そう信じていた。
 私はまだ生きている。

「死にたいらしいな」
 獄に繋がれた私を見舞ったのは、少女にしか見えない将校だった。
「機械の分際で生みの親を殺したそうじゃないか」
 その少女は一人だった。護衛をつけないなんて普通じゃないし、正気ですらない。大佐の徽章からすれば、副官なり補佐官なりが一緒にいてもおかしくないというのに。
「貴様の廃棄処分が決定された。理由は、不良品だったからだ」
 そうだろう。そうだろうとも。
 だとしたら、だからこそ私は。
「……なにがおかしい?」
 それが、この想いが認められるということなのだから、これ以上嬉しいことなんてない。私には感情があり、愛情があり、だから彼を殺したのだと、そう認めてくれるなら、死んだってかまいはしない。
 私は"私"になって死んでいく。それなら悪くない。
「ふん、最初から覚悟を決めていたか。……つまらんな」
 少女は私の顎を掴み、前を向かせた。両手両足を鎖に繋がれている私には、なにをされようと抵抗することもできない。
 嘲られていると、そう思っていたのに。少女の瞳には、そんなものはなかった。
 どこまでも透明な……鏡のような、静けさ。
「生き延びたいか?」
 生き延びる? 生き延びてどうする? キルシュはもういない。私が生きる理由はもうない。親殺しの大罪を犯した私が、生きていていいはずもない。
「ただの兵器として生を終えるか? 自らの生の証を立てる背徳者として生き汚く生き延びる覚悟すらないか? ……貴様は結局、なんになりたかったんだ?」
 私は。……私がなりたかったものは。
 ……そんなものはない。そんなものはわからない。私は設計者の意図"しない"意思を持ち、それはつまり、私の存在価値を"否定"していて、私はようやく"私"になることができたのだとしても、誰一人何一つそんなものは望んで"いなかった"のだと知っている。
 私が"私"である必要なんてどこにもない。"私"になってしまった私が生きている必要なんて……"ない"。
「半身を失い片翼をもぎ取られ、それでもなお生きている癖に、なぜ生きようとしない。死んだ片割れに対して恥ずかしくはないのか」
 少女は興味を失ったように手を離し、背を向けた。
 私はすがるようにその背を見つめ、自分は見捨てられたのだと初めて理解した。
 "私"は 生まれた時から 誰にも必要とされず 朽ちて"く"のだと
「貴様の廃棄処分は取り消させた。今日から私の部隊で働いてもらうことになる」
 少女の言葉の意味は理解できなかった。私のことを不良品だと言い放った口から出た言葉には思えなかった。
 そうして私は、瑞穂基地G3司令、ヴィヴリオ大佐の部下になった。




















 断絶




















「ブリューテンを調整すべきです」
 私の進言を、彼は驚きの眼差しで受け止めた。
「……いつから気づいていたんだ?」
「初めから気づいていました」
 彼は、そうか、と力なくつぶやきながら、椅子に深く身を投げ出した。
「ブリューテンは壊れているのか?」
「そう判断します。彼女は調整を受けようとすらしていません」
 本来なら、自ら進んで調整を受けなければならないというのに、ブリューテンがそうした気配はない。そして、彼もまた、それに気づいていながらも気づかない振りをしているようだった。
 だから、今まで言わないでいた。それでも、言わなければならないと思った。
「ブリューテンになにが?」
 私が疑問に思うのは、その点のみである。ブリューテンの意思はともかくとして、彼がそれをしない理由がわからない。私の時は躊躇いなく調整したというのに、なぜブリューテンにはそうしないのか。
「それを僕に説明させるのか。君は酷い女だな」
 彼は皮肉げに唇を歪めて、力なく笑った。
「私は"女性おんな"ではありません。兵器です」
「そうだな。そうだろうとも。だからなんだと言ったところで、君にはわからないんだろうな」
 ……? 彼はなにを言っているのか。私が兵器だからブリューテンに調整を施さないというのは、論理的ではない。私達は等しく兵器なのだから、ブリューテンは調整されなければならないというのに。
「いや、これはただの恨み言だ。愚かな技術者が愚かな夢を抱いたという、ただそれだけの話だ」
「……説明になっていません」
「そうだな。君にわかるように説明しようか」
 彼はそう言って体を起こし、指先でボールペンを弄びながら、少しして口を開いた。
「君が私に個人的な感情を抱いた時、私はそれを調整した。そうすることが私の仕事であり、役目であり、責任だと考えていたからだ。ところが彼女は、私に対する個人的で直接的な感情など欠片も抱いていない。それなのに彼女は、私に会いにくる。彼女の感情と行動は完全に分離している。だとしたら……私がそれを調整することはできない」
「理解できません」
「そうかな? ……そうかもしれない。そう意図して設計したのではなかったとしても、彼女の行動自体はプログラム通りだ、ということだよ。君にはそれを理解できない。だから彼女はそうするんだ」
 それもやはり、説明にはなっていなかったが、きっとそれは、私には理解できないんだということを説明しようとしているということなんだろう。
 つまり、彼はブリューテンを調整する気がないのだ。
「その行動はいつか御身を滅ぼします」
 壊れた兵器をそのまま使い続ければ、いずれは自らに害が及ぶ。そんなことは考えるまでもなく自明のことだ。
「そうだな。きっとそれが僕の犯した過ちに対する罰なんだろう」
 言いながら彼は手を差し出した。なにを考えているのかよくわからなかったが、私はその手を握り返した。
 強く、引き寄せられ。強く、抱きしめられた。
「ああ、本当に。君達は暖かいんだな」
 機械的に強化されている部位もあるとはいえ、構成素材の大半は有機材料バイオマテリアルでできている。求められれば"女"として機能することもできるし、そのように設計したのは彼のはずだ。
 なにをいまさら、そんなことを。設計通りだというだけのことじゃないか。
「僕はね、完全な人形で、完全な女性を作ってみたかったんだ。神の領域への挑戦なんて大したものではないけれど、僕は僕にそれが作れることを疑ったこともなかった。……出来上がったそれのことなど想像もせずに」
 身を離した彼は、情けなく笑っていた。
「作ってみたかったんだ。それだけが僕の望みだった」
「出来上がったものに興味はなかったと?」
「それは違うけど、だけどそういうことだ。僕がブリューテンを調整しないのは、だからだよ」
「……説明になっていません」
「いいんだ。それでも結果は出るんだから」
 なんのことだかわからないし、わかりたくもないけれど、そう言われては引き下がるしかない。
 最後にもう一度だけ忠告をして、私は診察室ラボを出た。

 得たものと失ったものにそれほど大きな違いはなかった。
 彼女はただもう一人の自分を本当に自分だと思い込んでいて、それが自分に対して興味を持っていないことに耐えられなかった。
 自分なのに、自分じゃない。自分なのに、自分を見てくれない。
 ただ認められたいだけの子供を生み出してしまったことに気づいて、僕はどうすればいいのかわからなかった。僕は兵器を作ろうとしたが、それは兵器ですらなかった。
 それが昔の自分の姿だと気づいた時、僕は彼女を調整することができなかった。……どうしてもできなかった。
 僕は孤児だ。戦争で天涯孤独となり、施設に引き取られ、才能を見出されて、技術者になった。
 軍は僕の才能を評価はしてくれたが、僕はいつも満たされなかった。僕が欲していたのは技術者として評価されることではなく、一人の人間として認めてもらうことだったんだと、彼女と触れ合う中で気づかされた。
 僕はただ、愛情が欲しかった。彼女はただ、誰かに認められたかった。
 作られたものである彼女の自我がどのように形成され、また、歪んでいったのかはわからない。あまりにも似たものがあると耐えられなくなる近親憎悪こそが彼女達の間の感情だったんじゃないかと、いまなら思う。
 彼女は彼女を愛していたわけじゃない。自分なのに自分ではないものを憎んでいただけだ。
 それでもそれに依存していたのは、他にはなにもなかったからにすぎない。逃げ場のない状況で目の前にあったのが憎悪だっただけだ。それを彼女の責任と言うのは酷だろう。
 だから、責任があるとすれば、それは僕が負うべきものだ。彼女達に感情を求め、自分が作り出したものにでもいいから認められたかったという、僕の我侭こそが責められるべきものだ。
 僕はずっと、母親が欲しかった。出来上がったのは、僕の子供だった。
 これはただそれだけの物語である。








※注釈
1.blutenブリューテンについて
 正確にはuの上に点々がつく(つかないと意味が違う)んですが、標準フォントでは表示されないのでそのままになっています。

2.完全機械化兵ファルコンネン・マシーネン・ゾルダートについて
 エンゼルギア世界の人造兵士。優秀な兵士の脳をクローニングし、機械の身体に移植した戦闘のためだけの存在です。V機関ヴァルターチューブと呼ばれる動力を用い、生身の人間を遥かに凌駕する性能を発揮します。脳が失われない限り、肉体が損傷してもパーツ交換だけで済むという特性があります。(機械なので)
 外見年齢が基本的に少女(というほどでもないか、14,5)なのは、完全に作者(エンゼルギアの制作者)の趣味だと思う。