Radio Wave SOS



 注意:このお話は例外的ギャク(?)で構成されていると思われるのでいままでのテイストからは逸脱します。しますがまあ書いているのは私です。内容もそんな感じです。
 目指せ電波系(の表現)。そして挫折。そんな感じの内容だったりじゃなかったり(どっちだ)。
 正しい読み方はまず電波系を理解している事(説明はなし)。次に()内の文章をスピーディーに読みこれは突っ込みなんだなと把握しながら読む事です。間違っても区切ったりするとおもしろくありません(元からおもしろくないだろ)。これこのように。
 ではどうぞ。

 宇宙人と地球人。

 自分はもうすぐ死ぬのかなあみたいな事をぼんやり考えていた。体が痛くないのが救いだろうけど、でもそれはきっと背中から落ちたせいで、脊髄とか神経が先にいかれただけであって、もしかしたらさらなる致命傷な感じなだけなんだろう。つまり痛くない事が痛い(精神的に)。
 まあそんなわけでもうすぐ死ぬかもしれない。先立つ不幸をお許し下さいお父様お母様なんて言うキャラクターではないので、とりあえず猫のチャッピーに謝る事にした。(子供に)虐待されずに生きてくれ。
 でもこんなところでこんな事で死ぬなんて自分の人生なんなんだ馬鹿なのか。そんな感じだ(どんな感じだ)。
 親と喧嘩をした。些細な事で。多分進路かなんかだろう(多分ってなんだ)。無理して受験する学校のランクを上げたくなかったので安全圏で手を打とうと思ったら反対された。向上心がないとか言われて。無理をするのと向上心は違うだろうと文句を言ったが相手にされなかった。あれはそういう親だ。
 だもんだから家出した。初めての家出だってのでちょっぴりどきどきわくわく(馬鹿か自分)。先行きの不安なんてないんだから箱入りな感じでずいぶんと微温湯につかって生きていたんだなあなんて死にかけてようやく気付いたって遅いっちゅうねん。
 ともかく適当に山に向かった。家出と言えばそういうもんだろうと思った(安直)。本音としては山小屋とかで一晩二晩過ごしてから帰れば親だって頭も冷えて多少は話も聞いてくれるようになるだろうなんて甘い希望的観測があった。とにかく冷却期間というものが欲しかったのである(なんとか持ち直そうとする別れ際のカップルかっつーの)。
 登山道の入り口で飯と寝袋を買ってルート案内の看板を見てから山に入った。目的地はもうすぐだというところでなんだか日が暮れかけてきたので(自分の体力を考えなさいよ)こりゃあまずいと思ってショートカットコースを自力で開発しようと思った。そして森に入った。
 落ちた。
 たぶん崖というほど切り立った場所だったわけでもないだろうけど、生憎の疲労困憊状態では転がり落ちるのに抵抗する事もままならず、ごろごろと谷底の方へと落下していく途中でなんだかやけに固い岩棚に着地した(岩は固いもんだ)。その時に背中を強く打ったのでつまりそれが原因で痛くないんだと思う。いまもそこにいるわけだし。
 そして動けない。意識ははっきりしている。それどころか思考能力は加速すらされている。すごいすごいよ自分。なんだかいままでわからなかった事が次々とわかっちゃう感じだ。でも死にかけの状態でわかったところで全然なんにも嬉しくない。ってゆーかむしろつらい。誰か助けろ(無茶言うな)。
 だんだん暗くなってくると考えまで暗く後ろ向きになってくる。ああ自分はそのうち餓死して(それとも獣に襲われて殺される?)腐って骨になって粉になって自然の一部に還元されてところで人間ってあんまり自然に優しくない成長のしかたしてるよね絶対エネルギー効率悪いってってゆーかそういう話じゃなくてともかくえーとなんだっけ?
 まあともかくこんなところで死んだら死体も発見されないわされたらされたでされた時は親でさえ二目と見られない状態になってるだろうしであんまりいい事がなさそうだ。たとえ死んだ後の事だとしてもそれはあんまり嬉しくない。
 でも捜索隊を出す可能性は万に一つもないからありがたい。自分とこの山を結び付けるものなんてほとんどないから捜索費用が借金として実家にのしかかるって事はないだろう。どうせ死ぬんならこんなところじゃなくてもっと有意義に死ねる場所で死にたかった(どこだそりゃ)。
 でももし助かったりしちゃったらちょっとしたニュースかな? 崖から転落奇跡の生還! なんてワイドショーが一分ぐらい取り上げてくれるだろうか。そんなもののために生き返る気なんてさらさらないけど(まだ死んでないだろうが)。
 まあ別になにがどうだっていい。自分はもうすぐ死ぬんだ。死んだ後の事なんて生きてる人達で勝手に考えちゃってくださいよもう。
 とか思ってたら強烈なレーザービームのスポットライトを浴びせかけられた感じで目の前が真っ白になった。なるほどこれが視線のレーザービームってやつなのか約二億ぐらいの(それは違います)。
 目がくらんだので目を閉じた。目蓋はまだ動く。そろそろ抵抗が激しくて開けるのにはちょっと苦労したがなんとか開ける事はできた。
 UFO(円盤型)がいた。びっくりした。
 自分はいままで心霊現象というものを体験した事がない。そしてなぜか自分の周りでそういうのが見えちゃったり感じちゃったりする人達はUFOを見たことがあったりするので、だから自分は幸せな方向に分類されているんだろうとそんなこわそげなものになんの興味もなかったから安心していたというのに。見えちゃった。
 ああこれから先は幽霊まで見えたり脅かされたり怯えたりしながら生きていかなきゃならんのか。でももうすぐ死ぬなら別にいいか。冥土の土産ってのはきっとこういうもんの事を言うんだろう(納得するな)。
 とかなんとか考えながら合掌してナムアミダブツ(漢字がわからん)とか唱えようと思っても無理なので心の中のみで念仏を唱えていたら、UFOの底部が光って穴が開いて中からなんだか緑色なスポットライトが照射されたかと思ったらその中を白衣美形眼鏡な人が降りてきた。自動ではないらしく階段を降りるみたいにして歩いて降りてきたのでちょっと残念だった(なにが)。
 その人の形は人間だった(男)。でもUFOに乗ってるんだから人間じゃないだろうしってゆーか宇宙人って人間ですかそれとも違うの? まあどっちでもいいけどとにかくこれは人体実験とか解剖とかいう類いの身の危険なのかもなあと思ったら別に恐くなかった。だってもう危険には遭遇した後で死にかけだし。人間二ヶ所以上の痛みは感じないってゆーからそれのお陰だろうきっとうん(きっと違います)。
 じゃなけりゃその人の目が緑一色だったりするのが恐くないわけがない。
 その人は足元までやってきて歩みを止めてじっと見下ろしてきた。なんだよおいなにしにきたんだこの野郎。そう毒づく事もできずに眺められるままにするしかない。いつもなら蹴りの二発や三発飛び出していたかもしれないけど(なにしろ宇宙人だけど美形なもんだからやれたかどうかに確信がない)体も動かないわけだしまあいっかと思って目を閉じた。なにをされるにしてもそんなもんをいちいち確認したくない。早く死のう。
 とか思って完璧な諦めモードに入った途端に抱き上げられた(多分)。冷たい手だ。時期が時期なのでズボンが短かったから膝の裏に回された腕の感触は冷たかったけどそれほど不快ではなかった。もっと粘着質なのを想像してたのに。普通じゃん。
 どうやらそのまま運んでくれるらしくて流れる空気が頬に当たった。だけど振動がまるでない。本当は動いてなくて風が当たっただけだよなんて優しく説得されたら納得しそうだ(優しくなきゃ駄目)。
 そんなところで意識がなくなった。皆さんさようなら。

 とかいって簡単に終わったら人生って楽なのかもしれないきっと。でも終わらないほうが珍しいわけだから自分の人生が大変なだけだろう。みんなそう思ってるしその通りなんだけど。
 目が覚めた時、体のそこかしこが痛かった。痛い。つまり痛覚の復活。確か脳味噌と脊髄の治療は現代医学どころか十年ぐらい先の医学でも不可能だったはずだなんて漫画で読んだ知識を思い出しながら起き上がった。
 そこは手術室だった。もっともやはり漫画の読み過ぎでその影響だったのかもしれない。より正確に表現するなら、そこはよく宇宙人モノの漫画の中に登場する宇宙船内の手術室のような部屋だった。
 天井にはライトがとりつけられて介護用ベッドみたいに上半身の部分が折り曲がってる金属質なのにあんまり固くないベッドに寝かされていてなぜか拘束はされてないのがラッキー。そんな状況。
 宇宙船なんて初めて乗ったなあなんて事を考える余裕はなかった。最初に考えたのは体が痛い腹減った。それぐらい。感動はその次。
 これは友達にも自慢できるネタなんだろうけどきっと口封じされちゃうから言えないんだろうなあ。喋ったら殺すとか家族に迷惑がかかるとか体に埋め込まれた爆弾が爆発しますとかそういう脅しを受けるに違いない。本当にそんな事言ってくれたらドラマチックだろうけどチープでボキャブラリーの貧困さに笑い出してしまうだろう。ドラマチックってそんなもん。
 体には包帯のようなものが巻き付けられているようだった。ただしサロンパスみたいな感触だったのであんまりよくない。その上に服も着ているからちょっとごわごわ。崖を転がり落ちたんだから泥でどろどろ(さぶ)になったはずなのに洗濯までされてぴんさらになっていた。ってゆーか買ったときよりもいい状態じゃなかろうか古着屋で買った服だから。これってハイテクかもしんないけどこーゆーハイテクってなんだかなあ。
 冷静な自分に驚いた。でも冷静なんだから驚かなかったのかもしれない。これってどっちなんだろうと真剣に冷静に考え込み始めたら多分入り口の扉が開いた。その部屋にあるのはライトとベッドだけで壁は一面白色だったのでどこに入り口があったのかもそれが本当に入り口だったのかもわからないけど壁の一部に穴があいてあの宇宙人の人が入ってきたんだからきっとそこが入り口だろう。じゃなくて出入り口。
「やあ。いい天気だね」
 すこぶる普通の挨拶だった。発音も日本生まれ日本育ちこちとら江戸っ子でいと言えちゃいそうなぐらい達者である。だからこちらも礼儀正しく返事をしようと思ったんだけど窓がないので天気がどんなだかわからなかった。てゆーかここはどこですか。
「昨日は珍しく釣りに出掛けたんだがおもしろいものが釣れてね。そのうち見せてあげよう」
 つーかだからあんたは誰でここはどこ。いきなりそんな日常会話をされても困っちゃいますわんな感じなんですけど。
 その人は床からみよーんなんて音と共にせり上がってきた背もたれのない椅子に腰掛けてベッドの上に座り込んでいる自分を見詰めてきた。なんか見せてくれるんじゃないんですか、美形だけど美形だけど目が緑ってのはちょっとあんたいくらなんでも。
 やっぱり美形だから許す(なんだそりゃ)。
「釣り、好きなんですか?」
 おそるおそる尋ねた。日常会話の応酬をするにはそれぐらいしかネタがなかった。全然関係のない話題を振ってもいいかもしれないけどそれはちょっと恐い。やっぱり宇宙人相手ってのはいくらなんでもやっぱり。
「大嫌いだよ。ああいう他人の命を弄ぶスポーツは押し並べて嫌いだね。君が魚だったら釣られてみたいと思うかい?」
「いいえ全然」
 そんな事より宇宙人がそんなまともで良心的な事を言い出した事にびっくりです。てゆーか自分は魚じゃないんでその仮定はそもそも無意味なんですけどと答えるのは恐かった。それにそれは偽善だし。釣らなきゃならん人だっているじゃないかたくさん。漁師とか。
「ちなみに漁業は大好きだ」
「なんですかそれ」
 まるで考えを見透かされたような質疑応答もどうでもよかった。ただこの人は宇宙人で地球人的には頭が痛い人で電波なんだなと思った。
「食料として収穫されるのは弱肉強食の掟だよ。だから私も釣りをする」
 とか思ったら微妙に論理的で筋が通ってたりするし。筋の通しかたがまたなんとも個性的で宇宙人でしょうあんたは本当に聞かなくてもわかりますって感じだけど。
「そしてこれがその獲物だ」
 懐からするすると取り出したのは絶対そんなところには入り切らない姿見の鏡である。あのポケットは空間を圧縮したり切り離したりどっかと繋げられる構造にでもなってるんだろうかそうじゃなかったら困りますって感じで自然に取り出す。
 そしてそこに写し出されたのは自分自身。ああ顔にまでサロンパスが。
「鏡を釣ったんですか?」
 最近の海では奇妙な物体もいろいろと釣れるらしいから鏡ぐらい釣れたとしてもおかしくない。まあこのサイズなのに割れてなかったってんなら摩訶不思議のアンビリーバボーだけど。
「釣ったのは君だ」
「は? 僕が鏡を?」
 釣った覚えはないなあってゆーか釣り自体そんなにした事ないからなあ。
「君を釣ったんだ」
「ああなるほど」
 筋違いな事を言ったのに呆れもせずに根気強く相手をしてくれるこの人はきっといい人。ってゆーか表情筋はあるんですかどころか口も動いてないのにどーやって喋ってるんですかあんた。
 ……てゆーかええ!!?
「僕を食べる気!?」
 そうか宇宙人の食料は地球人だったのか。新たな発見だ矢追○一に教えてあげないと。それとももう知ってるんだろうか。
「美味しくいただく予定だ」
 あっさりと真正面から答えないでくださいそんなしょーもない事。てゆーかこれで再び死ぬ事決定だね自分!(キャハ☆) しかもただの餓死ならともかく食われて死ぬたあなかなかできる死に方じゃないよ! ろくな死に方しないとは思ってたけど(なんで)まさかこんな死に方をするとはね!
「とりあえずゆっくりじっくりと傷を治してくれたまえ。傷物はあまり美味しくないのでね」
 ヘンゼルとグレーテルはこんな気分だったんだろうなあなんて思いながらここには目の悪い魔女を焼き殺すかまどがないので脱出は不可能だぜ自分とちょっとあっちの世界に逃避してみる。してみた。帰ってきた。
「僕はあんまり美味しくないと思うよ?」
 声が震えて裏返った。なんて人間らしい自分。死ぬ覚悟なんてそう簡単に決まらないもんだねえ痛いのはヤだし(痛くなかったらいいのか)。
「食べた事があるのかな?」
 ない。そりゃあない。けどだってそれはねえ?(誰に同意を求めてる)
「私は君を美味しく食べる事ができるだろう。だから君は傷を治す事に専念すればいい。簡単な事じゃないか」
 なんでそんな簡単な事さえ理解できないんだというわずらわしさを覗かせながらその人はそれでも表情を変えなかった。雰囲気だけでこんだけの感情を相手に伝えるってそれはそれでものすごいけどなんヤだ。
「食べられるために生きろっての?」
 私が拾ったんだから当然だとかそのぐらい事を言うよこの人はきっとってゆーか絶対に。言わなきゃヤだ。
「他に生きる目的があるのかな?」
 そういう質問に質問で返す類いの返事は卑怯だすじゃなかった卑怯ですと思ったものの反論はできないのでとても悔しかった。確かに他に目的があるのかと聞かれればない。まだ。
 でもいつかできるかもしれないし未来の事なんて誰にもわからないし目的がなかったら生きてちゃいけないのかってーとそうでもないと思うし。
「私のためだけに生きていればいいんだよ。君はもう私のモノなんだからね」
 この人暴君だってゆーかすんごい我儘だ。人が死にかけてたところを拾って傷を治して命の恩人だからあんたの人生寄越しなさいだなんてどういう理屈だ。拾得物のお礼は5%が基本で拾ってもらった人次第なんだぞ(論点が違うだろうってゆーへか5%なら構わないのか)。
「ともかく静養していなさい。食事は運んであげるから」
 微妙に優しい人? それともペットを飼う感覚? どちらだったとしても衣食住に困る心配はなさそうだったので立ち上がり背を向けた所にダイビングアタックをかまして押し倒した。
「なにかな?」
 後ろ手に腕をねじ上げられても苦鳴すら漏らさない。馬乗りになってそんな事しながらこんな事言うのもなんなんですけどなんだかこっちのほうが悪い事してる気がしてきた。
「食べられる前に殺っちゃえとか思って」
 命がかかりゃあなんだってしますとも。きちんとベッドに縛り付けていなかったうぬが不覚よあっはっは。
「痛くはしないつもりだが?」
 なんだか問題点が違う。痛くなけりゃいいってもんでもない。
「それに、私を殺す気ならもっと本気を出すんだね」
 これでも十分本気ですともと本気を示すために腕をへし折ろうと力をいれたら抵抗が急になくなって力がすり抜け体勢を崩してしまった。なんだ今の関節が変な具合に回らなかったか?
「君達と同じ体の構造だとでも思ったかな?」
 体勢が崩れたのは一瞬の事だと思ったが、気が付けばいつの間にか立場は逆転し組み伏せられていた。ただしこっちは仰向けで両手首を押さえ付けられているし馬乗りにもなられていない。
 それよりもなによりもそんな間近に顔を近付けられたら宇宙人だとわかっててもどきどきもしちゃいますよもう。自分は変態か。
「まあ、それだけの元気があるなら問題なしだろう。とっとと怪我を治してくれたまえ」
 すぐに立ち上がり先程とまったく変わらない無防備さで背を向けてくれる。もう一度襲い掛かったらどういう反応するだろうかせめて驚いてくれないかな。なんて考えてたらいなくなっていた。早いよあんた。

「さて、そろそろ怪我はいいかな?」
 あんたそれはわざとだろうそうに違いないでもそれが当たり前か。なんてったってこの人が怪我の治療をしているわけだしって別にこの部屋にいるだけだけどさ。どうやってやってんだかわからないけど怪我だけは本当に着々とものすごいスピードで治ってしまった。痛みはもうない。
 さすが宇宙人の技術。真空の海を渡ってくるだけはある。
「た、食べられちゃう?」
 拘束されたわけでもなく単純に足がすくんでベッドの上から逃げられずに腰だけ引けながら涙目で見上げる。こんなんでちょっと罪悪感でも感じて助けてくれたりしたらラッキーなんだけどなあきっと無理だけど。
「頭からばりばりと」
 やっぱり無理だった(そりゃそうだ)。それに初めて表情筋を動かしたかと思ったら微妙に不気味に微笑んでくれたりしたのでとても恐かったです(小学生の感想文)。
「大丈夫。痛くはしないから」
 痛くはしないったって食べるんじゃんそれって痛いじゃん。でもまあ本当に痛くないなら食べられたっていいようなやっぱりいやなような。そもそもまだ死にたくないし自分。
 でも不気味だろうとも微笑みながら美形が近付いてくる状況ってのはこれはこれでおいしい。ああ煩悩まみれな自分そんなもんのために死ねるんですか。死ねちゃいますきっと。
「なに、何事も最初は恐ろしいものだよ。終わってしまえばどうという事もない」
 そりゃそうだろう。死ぬのは一回だけだしってもしかして何度も食べる気なんだろうか。死なない程度に肉を食ってここの強力な細胞の活性復元機構を利用してその傷が治ってからまた食べるとか。それっていやん。
「でも……」
「どうしても恐ければ目をつぶっていればいい」
 言われるままに目を閉じた。恐いものは恐いし目を閉じたって恐いけど眼前の恐怖を見据えていられるほど強くはないんです僕って。
 そんなわけで宇宙人に腕を掴まれたときには失神してしまった。

 痛い痛い痛い……あれ? 痛くない?
 目が覚めた。別にどこも痛くなかった。体中を見回したり触ったりして確認してみたけれどもどこの肉も減ってなかった。食べられたんじゃなかったっけか自分。
 とか思ったら宇宙人がすぐ隣で寝ていた(しかも白衣を着たまんま)。そういや部屋の雰囲気が違う。あの白一色の無味乾燥な手術室じゃなくてきちんとした地球人が使うようなベッドがあるけれどそれ以外はやっぱり白い部屋だった。どこだここ。
 だけど一番問題なのは宇宙人だ。なんで隣で寝てるんだあんたは。
 とか思ってその寝顔をじっと見詰めていたらなんの前振りもなく目が開いたのでとても恐かった。
「元気かい?」
 むくりとまるで機械仕掛けの人形のように上半身を起こす。はっきり言って不気味だ。それにシーツがめくれてしまったので寒い寒い寒い? 寒いってなんで寒いんだよ部屋はこんなに暖かいのにと思って自分の体を見下ろしたら自分は裸になっていた。
 びっくりした。
「ななななんで僕は裸なの!?」
 シーツをひったくって体に巻き付ける。白衣の前のボタンは開いていたが下にはきちんと服を着ていた。黒のハイネックに黒のズボン。しかも材質不明なやつを。
「言っただろう? 食べてしまったからだよ」
「服を!?」
「いやいやそうじゃなくて」
 宇宙人が溜め息のようなものを吐きながら(ってことは呆れさせたって事か凄いぞ自分)ベッドの脇を指差した。そこには確かにきちんと服が畳まれ置かれている。てゆーかさっきあったかそんなもの?
「君をだよ」
「……食べるってそういう意味だったの!?」
 自分の顔色が赤くなったり青くなったりしているのは痛いほどよくわかった。ああなんだか目まいまでしてくる。でもいくらなんだってそんなあんた宇宙人のくせになんで。
「私は菜食主義なんだ」
 釣りが好きだってゆーからてっきり肉食だと思ってましたともええまったくこんちくしょう。こっちの勝手な早とちりだったってわけか。ああそうですか私がわるうござんした。
「でも頭から食べるって言ったじゃ!?」
「ジョーク、言葉の綾というやつだ」
 そりゃまたずいぶんと巧みな日本語ですねあんた。日本在住何年ですかというよりも本当に宇宙人ですかそんな目してるけど。
「ところで、まだ逃げたいかな?」
 再びベッドに横になり横向きになって見上げてくる。なんだかあんまり宇宙人って気がしない。見慣れたせいかもしれないけど緑色の目もそんなに気にならなくなってきていた。
「なにから?」
「聞き返す事自体が愚問だね。わかっているだろう?」
 わかっているのかと聞かれてもわかっていないから聞き返すわけででもそう言われたからには考えればわかるんだろうとなんの疑いもなく納得して考えた。わかった。
「僕は別に、親から逃げたかったわけじゃない」
 ただ距離と時間を作りたかっただけだ。
「だが君は逃げたんだ。正確には逃げ場を求めた。でなければあんなところで崖から落ちてのたうちまわっていたはずがない」
 最後のあたりに誇張が感じられたがそれは無視して反発する。
「だけど僕は、親に不満があったわけじゃない」
「であれば我慢していただろう。だができなかった」
 だからなんだってんだこの宇宙人め。やる事やったら今度は説教モードか。きっちり自分の所有物にしてしまおうって腹なのかいあんたは。
「そんな事はどうでもいいんだがね。心残りがあるというのはおもしろくない」
 どうせ有無を言わせずに自分のものにする気で実際にしたくせになに言ってるんだこいつ。しかも不貞腐れたのか反転して背中を向けてくるし。ガキじゃないんだからそう簡単にすねるなよ。
 って人の事ばっかり言えないよなあやっぱり。
「あんた、寂しいの?」
 こうやってこの人にかける言葉はすべて自分に跳ね返ってくる。寂しかったのは自分も同じだ。仕事が忙しいとか大変だとかそれが自分達のためだって事もわかってるけど、それでもけっこう寂しいんだよ子供って。それなのにたまに家にいるから相談してみりゃこっちの意見も聞かずに反対ばかりってあんたそりゃなんですかって感じじゃないか。
「別に」
 だけどあんたそんな哀愁振りまきまくった背中を見せ付けておいてそんな事言ったって説得力ないでしょうが。寂しいなら寂しいって素直に言えばいいのに。
 でも言えてたら苦労はないんだよね、ほんと。
「だから僕を拾ったの?」
「君は釣っただけだよ。たまたま偶然に。SOSが出ていただけさ」
 自分はSOSなんか出してたのか。出してたのかもなあとも思う。そうでなきゃ家出なんかするはずないし。その先で微妙に方向性を誤ったけどそれが縁でこの寂しがり屋の宇宙人と出会えたわけだし。それはそれでよしか。
 ってなにを納得してるんだ自分。このままいったら帰れないどころかこいつの手慰みなんだぞ自分。
「いまだって君はぐんぐんと私を引き寄せている。構ってくれ構ってくれ構ってくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ。そんな電波を出している。だから私は応えた。それだけじゃないか」
 電波。電波ときた。こいつが電波系で受信できても全然驚かないけど(どころかそうじゃないと納得いかないけど)でも電波なんて。
「なのに君達は私を遠ざける。電波とは裏腹に私を捨てるんだ。私は君達のために君達を助けたいと思ったのに。だからもう誰も助けない。拒絶され捨てられるぐらいなら助けない。そう思っていたんだ私は」
「じゃあ……なんで僕を?」
 助けてくれたじゃないか。死にかけていた自分を助けてくれたじゃないか。それは結局……
「私には君達の事なんてわからない。わからないさ。君達は私を同じ人間とは見てくれない。だから私は君達と同じ人間にはなれない。もし私が最初から君達と同じ人間だったらこんな思いはしなくたってよかったのに」
 だって円盤に乗って現われたりしたら宇宙人だとしか思えないじゃないか。それに緑色の目なんて非人間的な見目をしていたら警戒心だって働いちゃうじゃないか。
「じゃあ、僕はここに残るよ。あんたと一緒にいる」
 これは同情だろうか? 同情かもしれない。こいつの向こう側に霞んで見える自分を救いたいのかもしれない。
 それでもいいじゃないか。自分を救おうとする事がこいつも救うんなら、それでいいじゃないか。
「本当に?」
 振り返りもしないのは失礼だと思うけどね。まあいいさ。
「だけど、家族に心配はかけたくないんだ。いまさらかもしれないけど。だから、挨拶だけはさせてほしいな」
 なんだか進学とかそんな問題で悩んでたのが馬鹿みたいに思える。こうやって誰かを助ける事ができるなら、きっとそのほうが何倍も有意義な事なんじゃないだろうか。そう思った。
 だから、いいさ。どうせ死ぬはずだった命だ。こいつに、この独りぼっちの宇宙人に預けたって別に構わないさ。
「どうやって誤魔化す気だい? 電波な宇宙人と一緒に暮らすから心配しないでほしいとでも?」
 ヤな電波系だなーこいつ。自分の事を電波系だと認識してる電波系なんて手に負えないじゃないか。困っちゃうよ本当に。
「かっこぐらい人間っぽくできるんでしょ?」
 まあもう十分人間っぽいけどさ。これだけの科学力があるんなら目の色ぐらいなんとでもどうとでもなるんじゃないとか思うじゃない。
「この目を除けばね」
 そしたらこれだ。そうか目は駄目なのか。それが一番目立つのに。
 まあいっか。なんとなるだろう。あの人達をだますのなんてそんなに難しい事じゃないし。そもそも居場所を教えてやれば独り暮らしぐらいさせてくれるだろう。もとからそういう家訓だかなんだかがあるらしいし。変な家訓ってーよりもいまさら家訓かよって感じだけど。
「じゃあ、ちょっと手伝ってよ。目なんてサングラスでもかけてれば誤魔化せるだろうからさ。両親の説得工作ぐらいすぐだし」
「……信じていいのかい?」
 ようやく振り返った。なんだか泣いていたように見えた。思わず抱きしめたくなったので抱きしめた。
「絶対とかそういう言葉は好きじゃないんだ。だってそんなものあるはずがないんだからね。でも、いまの僕はあんたがとても好きみたいなんだ。どうしてかはわからないけど。だから信じてよ。あんたを好きな僕をさ」
 くっさいセリフだなあなんて自分でも思う。けどこの手のキャラは案外オーソドックスな攻めに弱いもんだ。やっぱり冷静で打算的で計算高いよ自分。崖から落ちたとき神経が一本ずれたのかな?
「もし私が嫌いになったら?」
「そんときゃあ別れるしかないっしょ。無理するのはお互いつらいだけだろうしね。だからそうならないように互いに努力しましょうねって話だね」
「君は……君は、すごく我儘だね」
 あんたに言われたくないわい。相手にされないからって誘拐してまで友達作ろうとしてたくせに。
 でもま、別にいっか。油断からか安心からか信頼からかはしらないけれど、とにかく微笑んだその顔の優しさが見れればそれで満足ってもんさ。
 安いぞ自分と思ったり思わなかったり。でもそんな自分も嫌いじゃない。
「で、その、あの、さ」
 えいちくしょうこんな事で歯切れが悪くなってどうするってんだ自分。言いたい事があるならずばっとはっきり言う。それがより良い関係のための最善策だってわかってるはずなのに。
 でも言い出しづらい事ってあるんだよ実際。そしてそういう事ってなんでかばれちゃうんだな、これが。
 ぐぅ。
「……ご飯、用意するよ」
 呆れながら宇宙人は立ち上がった。ええいちくしょう笑うなよ!
「早くね!」
 恥ずかしさのあまり赤面してしまったのを見てか宇宙人がくすくすと笑いやがったので枕を引っ掴んで投げ付けた。枕。なんて日常的な響き。
「善処しよう」
 枕を受け止め小脇に抱えて宇宙人は部屋を出ていった。あの枕をどうするつもりだろうかあいつは。
 まあ別にどうだっていいけどね。ベッドに勢い良く身を投げ出したら、すぐに眠たくなって眠ってしまった。これから宇宙人と暮らす緊張感なんて欠片も感じずに。
 だもんだから、食事をお盆に載せて帰ってきたのにすでに眠りこけられていた宇宙人が初めて困った顔をしたのも見ることはできなかった。